孤高の魚
「もちろん、いいけど」
そう返事をしながら、正直僕は驚いていた。
野中七海が、僕の大学の授業が終わる時間を把握してくれている?
あの、いつも歩太の事で頭がいっぱいだった彼女が?
ブルーのノートを埋める作業で手いっぱいだった彼女が、僕の大学まで迎えに?
そのどれもが、もちろん初めての事だった。
「本当? うれしい。
なら、あのオーガニックレストランへ連れて行ってくれる?
前にアユニが工藤さんに連れて行ってもらった……」
「……あ、ああ。
歩太が気に入っていた?」
「うん。そう。
そこに、一緒に」
確かに。
彼女の行動の先には、相も変わらず必ずと言っていいほど歩太の影がある。
それは変わらない。
けれども決定的に違うのは、そこに僕を巻き込もうとする風潮がある事だ。