孤高の魚
「アユニ、今日お店が終わったら、一緒にCOMへ行きましょう?」
お会計を持って来た野中七海が、そう僕に耳打ちした。
「もう少し、飲みたい気分なの」
そう言って瞬きをした彼女の長い睫毛が、綺麗にカールしている。
昼間には気が付かなかったけれど、ライトを浴びて頬に落ちる影の形がいつもと違う。
いつの間にか彼女は、薄化粧を覚えたのかもしれない。
僕の知らないうちに?
……やっぱり。
少しずつ変化は訪れている。
「喜んで」
僕達の距離はこうして徐々に近くなるはずだ。
僕は彼女に笑顔を返しながら、その確信に染みる様な幸福を覚える。
細い身体を翻して席へ戻る彼女の後ろ姿。
その美しいラインに視線を置いたまま、僕は小さな決意の息を吐いた。