孤高の魚
準備
ブーー
ブーー
ブーー……
次の日の朝、僕は携帯のバイブ音で目が覚めた。
枕元に起きっぱなしだったそれを取り上げると、「新美尚子」の文字が表示されている。
『歩夢?』
通話ボタンを押すと同時に、僕の耳に飛び込んで来る尚子の声。
「……うん」
昨日、ちょっと遅くまで飲み過ぎてしまった僕の声は渇れている。
喉がカラカラだ。
『寝てたの? もうお昼だよ?
飲み過ぎたの? 二日酔い?』
「……あーー……」
昨日、野中七海と『COM』へ行ってから、帰ったのは明け方だったか。
彼女があんまり楽しそうにして飲んでいたから……
体を起こすと、頭に鈍い痛みが走る。
ああ、そうだ、二人でワインを二本は空けたんだっけな。
『ナナミちゃん、いる?
今からそっち行くけど』
「……ああ。
……いるんじゃないかな」
『そっか。じゃあ、後でね』
電話を切って時計を見ると、12:46の文字。
野中七海もまだ眠っているのだろうか。
キッチンの方も随分静かだ。