孤高の魚



酔っている彼女はよく笑った。
あんなに楽しそうにしている彼女を、僕はあまり見た事がない。

野菜スティックを頬張ってチーズをかじり、白ワインを口に含む。
そうして僕の顔を見ると、脈略もなく楽しそうに笑った。


赤い彼女の頬。
ワンピースを膨らませた彼女のラインが、僕の心拍数を否応なしに上げていた。

手を伸ばせば触れる事のできる距離。
けれども僕の腕は躊躇いながら、もちろんそこに向かう事はない。


ああ……
いったい何の話をしたんだっけ。

さくらのお客さんやママの事、小百合さんと工藤さんの事。
僕らの日常に起こった、小さな出来事を色々。
ごく普通の事。

僕は聞くのが専門だったけれど、彼女はグラスを片手に珍しくよく喋った。
やっぱり、少し飲み過ぎてしまったのだろうか。


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