孤高の魚
コン
コン
コン
ドアを強くノックをしてみる。
けれどもやはり、反応はない。
「……いないのか?」
そう声にしてみる。
やはり、返事はない。
僕は、ドアに静かに手を掛ける。
何故だかはわからないけれど、『開けてみよう』……そんな気持ちが起こってしまった。
歩太の部屋とは言え、今は年頃の女の子が住んでいる部屋だ。
そうでなくても、他人の部屋を覗く趣味なんて、僕にはなかったはずなのに。
『僕達の距離は縮まった』
そんな思いが、僕を不徳な衝動に導いているのだろうか。
鍵のかからないドア。
彼女の不在をどこかで確信しながら、僕は静かに引き戸を引いた。