孤高の魚
「準備よ」
突然背後から声がして、僕の体は硬直する。
振り向くと、そこには野中七海の視線があった。
「ここを出る、準備をしていたの」
寒さに震える、彼女の青白い顔が笑っている。
艶のある黒髪から、ポタリ……滴が落ちた。
「……どこに」
「少し、外を歩いていたの。
そうしたら、雨が降ってきちゃった。
……雪に、なりそうよ」
僕の言葉を最後まで待たずに、彼女はスルリと僕の前をすり抜けてそう言った。
肩も、腕も、足も濡れている。
「……風邪ひくよ」
そう言った僕に、彼女は弱々しい笑顔だけで応えた。