孤高の魚



ふらり、ふらりと、彼女の足取りは頼りない。
漂うようにして、ここに居る。


……今にも消えてしまいそうだ。


昨日の、あの陽気で明るい野中七海はどこへ行ったのだろう。
酔いと共にそれらの気配は消え失せていて、僕は少し不安になる。

勝手に部屋に入ってしまった事を、怒ってはいないだろうか。


彼女は僕に背を向けたまま、黙ってコートを脱いだ。
クリーム色のタートルネックのセーターが露になる。
裾にレースのついた生成色のスカートは、雨で少し濡れていた。


「……ああ、ごめん。着替えるよね」


僕がそう言って踵を返すと、

「待って、アユニ」

意外に強い声で、彼女は僕を呼び止めた。



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