孤高の魚



……一呼吸置く。


僕は冷めてしまったコーヒーをシンクに流し、濃いめのコーヒーを入れ直した。


彼女の言葉は、ゆっくりと紡がれる。


「歩いているうちに……頭の中が、だんだん、透明になっていくような感じがして……」


一つずつ手にするように、彼女は思考の中をさ迷う。
視線を天井に泳がせながら、少しずつ少しずつ、何かを確認しているようだ。


「そうして、突然……『ああ、そうか』って、思ったの」


そう呟く彼女の瞳が、微かに開いた。


「何か……わかった?」


そう急かす僕は多分、何か自分にとって都合のいい事を期待している。


「……そう、わかったの。
アユは……わたしから逃げて行ったんじゃないかって」



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