孤高の魚
それならば歩太は、仙台へはその彼女に会いに行ったのだろうか?
僕の問いは、声にはならない。
「アユと一咲……二人はとても、愛し合っていたわ」
……イサキ。
歩太が愛していたという、女性の名前だろうか。
「……今でもよく覚えてる。
一咲の弾くピアノ。笑い声。長くて真っ直ぐな髪。
アユが一咲に惹かれたのも、当然の事だわ。
一咲はとにかく……誰の前でも、完璧だったもの」
野中七海は表情を変えなかった。
変えずに、落ち着いた様子でコーヒーを口に運ぶ。
頬には、幾分か赤みが戻っていた。
彼女は一呼吸置くと、スカートのポケットから煙草を取り出した。
僕は立ち上がり、彼女のために灰皿を用意する。