孤高の魚
僕はあの日、彼女の過去から逃げ出した。
そんな僕が白々しくプレゼントを用意するなど、烏滸がましい様な気さえする。
「あたしは用意したよ?
ナナミちゃんには真っ白いカシミアのセーター、歩夢には黒いレザーの財布。
それから、ね。この子には何と、靴下を編んであげてるのでーす」
そう言ってお腹をさする尚子は、すごく幸せそうだ。
その表情を見ていると、僕の胸は複雑に軋む。
………
『罪の子』
思い出したくはない言葉だった。
尚子のお腹の子を、野中七海はどう考えているのだろう。
『歩太の子』
尚子がそう言い出した時、彼女はいったいどんな心境だった?
そうして、その責任から逃れる様にしながら、なに食わぬ顔で尚子と過ごす僕の事を、彼女はどんな風に思っているのだろう。