孤高の魚
「おまたせしてしまってごめんなさい」
キッチンで待っていた僕らの前に、野中七海がひらりと現れた。
「わあ、ナナミちゃん、キレイ!」
尚子がそう叫んだ様に、白に近い薄いブルーのパリッとしたシャツワンピースを着た野中七海は、可愛い、というよりはキレイ、だった。
中には発色のいい濃いブルーのタートルニットを合わせている。
「えー、えー、しかもこのネックレス、ナナミちゃんにすごく似合うし」
わざわざ立ち上がってまで尚子が覗き込んだ野中七海の胸元には、魚の形をしたネックレス。
小ぶりだけれど透明な石がキラキラしていて、上品だ。
まるで、ニットのブルーの上で優雅に泳ぐ一匹の魚。
「兄に、もらったんです」
……兄。
尚子にそう微笑む彼女の笑顔はどこか、僕には歪に見えた。
気のせいだろうか。
「歩太に? ふーん、さすがじゃん」
尚子はわざとらしく頬に指を当てながら、感心したポーズをとる。
「じゃあ、みんな揃ったし、行こっかあ!」
それから何の気もない軽快な尚子の声を合図に、僕達はアパートを出た。