孤高の魚
「歩太がいなくなって……歩夢までいなくなったら……ちょっとあたし、参るかも」
やっぱり、尚子は少し酔っているのだろう。
久しぶりに、歩太の事を思い出しすぎたのだ。
「や、どっちにしろあと1年半は、大学、あるから」
僕は最もな事を言い、煙草に火を付けながら、茶化して笑った。
このしんみりとした空気を、吹き飛ばしたかった。
………
煙草の匂いが、二人の間に立ち上る。
それを見上げながら、僕はまた意味もなく笑った。
第一僕は、いなくなる理由なんてないし、そんな事、考えた事もないのだから。
………
しかし、尚子も尚子だ。
もう少し、同棲している彼氏の事も考えた方がいい。
彼こそが尚子にとって、一番、いなくなってしまっては困る相手ではないのか。
………
けれども、そんな尚子を部屋に招き入れて、彼氏を裏切らせている。
僕も僕……なんだけれども。