孤高の魚
………
「小さい頃はね、わたし、クリスマスがとっても楽しみだったの」
いくつかの呼吸を置いてから、野中七海は口を開く。
一つ一つを思い出す様にして、彼女の表情は穏やかだ。
「ママはお料理がとっても上手だったし、パパは素敵なプレゼントを用意してくれた。
……サンタさんなんて、わたし達にはいなくてもよかったの。
だって、わたし達にはパパがいたんだもの」
僕は彼女の話に耳を傾けながら、煙草の煙と一緒に深く息を飲む。
喉が、コク、と小さな音を立てた。
「でも……いつからだったかしら。
わたしは出来のいい一咲と比べられるようになって、クリスマスのプレゼントにも、わたしだけ、条件がつくようになったの。
……漢字のテストで90点以上とれたら、とか、ピアノのバイエルが何番まで進んだら、とか」
言いながら、彼女は笑顔を貼り付ける。
「パパからのプレゼントを笑顔で受け取る一咲の横で、ただジーッと、それを見ているだけのクリスマスもあったわ」