孤高の魚
『パパ』の話をする時の彼女は、笑顔の裏に必ず劣等感の影を見せた。
彼女の中の父親という存在は計り知れない。
「一咲は言ったわ。
ナナも、頑張ればテストで100点をとれるし、バイエルを終えて、ソナチネに移ることだってできるって。
……でもね、一咲はいつも、わたしが目指す、その先を行っていたの。
わたしがいくら頑張ったって、パパが一咲よりわたしを誉めることはなかったのよ」
………
想像してみる。
常に誰かと比べられ、差別を受ける事の寂しさ。
僕には兄弟はいないけれど、僕にだって劣等感はある。
誰かと比較され続ける事自体、容易には耐えられない。