孤高の魚



「……アユは、そんなわたしにもとっても優しくしてくれたわ。
家を出たことのないわたしを、遊びの場所へ連れて行ってくれることもあった。
……嬉しかったわ。
わたしは、優しかった頃のパパを思い出した。
……デパートへ連れて行ってくれたパパ、手を繋いでくれたパパ」


そう言って微笑む野中七海。


………


彼女の中で父親と歩太が重なった時、それはとてつもないエネルギーとなって彼女を惹き付けたに違いない。
それは、工藤さんにアドバイスを受けてからずっと僕が望んできた特別な現象だった。


『父親にでもなったつもりになれ』


工藤さんはそう言って、情けない僕をたしなめてくれた。




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