孤高の魚
「わたしだってそう。
……あの夜が来るまでは、わたしだってアユは一咲のものになるんだって、疑わなかったもの」
……『あの夜』
その言葉はやけに秘密めいていて、僕は何だか嫌な予感がしていた。
「……アユは時々、まるで軽い冗談のようにキスをくれたり、悪戯めいて抱きしめてくれたりもしたの」
どこか恥ずかしげに目を細める彼女の表情に、僕の予感はいよいよ的中しそうだと思った。
ほとんど無意識に、拳を握る。
「それも一種の、アユのわたしへの優しさだと思ったわ。
男のひとを知らない、世間知らずの少女に、ドキドキや温もりを教えてくれてるんだって」