孤高の魚
「よく覚えている。
一つ一つ、順番に、何かを解いていくみたいに、アユはわたしを愛してくれたわ。
……今でも、わたしの全ての皮膚に染み付いているの。
アユの優しい、指の痕が、くっきりと。
アユがわたしの中に入ってくる度に、わたしの頭の中は、溶けて、身体ごと
全部、どこかに流れていってしまいそうだった。
それくらい、満たされていたのよ」
そう言った野中七海の表情は、まるでたっぷりの水分を含んだスポンジの様に、じっとりとした膨らみを持っていた。
その顔は、暗がりのベッドの中で悶える尚子を思い出させる。
……いや。
もっとずっと、感度の高い女の顔だ。