孤高の魚
もう、このまま溺れてしまいそうだ。
二人で溺れるなら、それでもいいだろう。
けれども僕達は別々の方向を向いて、各々に溺れている。
僕は彼女に手を差しのべているつもりだった。
けれども、いつの間にかその手は自分を浮き上がらせるのに精一杯で、バタバタとただ虚しく水をかいている。
そうして続いていく彼女の告白は、さらに益々深く、濃い闇の底へと僕を連れて行くのだろう。
そんな予感がして、僕は小さく身震いする。
………
「一咲の姿が見えない事に、先に気がついたのはアユの方だった。
後片付けを終えて、一咲は、疲れたから少し横になると言っていたわ。
けれど、ベッドの上に一咲の姿はなかった。
アユが、一咲を探しに外へ出ようとして……玄関で、ちょっと行ってくる、そう言って靴を履いていたの。
……その時よ。
外で、鈍い、嫌な音がしたのは」