孤高の魚



ああ。
僕の嫌な予感は的中した。
背中に、電気の様な悪寒が走った。


もしかして一咲さんは……



………



……




「飛び降りたの」



野中七海の声は、重い空気を突き抜けた。


「一咲は、マンションの五階のエントランスから……
身を投げたのよ」


そう言い切った彼女の声は強く、まるで、もう一度その事実を自分自身で確認しているかの様だった。

彼女は何度、この事実を噛みしめてきたのだろう。
その表情は固い。
けれどもまた、その苦しみにすら、すでに慣れてしまっている様な顔付きでもある。



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