孤高の魚
「コンクリートの上には、綺麗な赤い海が広がっていた。
駆け出したわたしの目には、すぐにそれが飛び込んできたわ。
その海の上に、一咲はぽっかりと浮かんでいたの。
……ううん、もしかしたら、沈んでいたのかもしれないわ。
それからすぐに、冷たく硬い何かがわたしの瞼を強く押さえて……
それでも、瞼の裏には、いつまでも赤が浮かんでいた。
そうして赤の中で、キラリと何かが光ったの。
しばらくして、それは鈍く点滅を始めるのよ。
……チカリ、チカリ、チカリ」
………
彼女は、静かに瞼を閉じた。
それから両手の指を組んで、唇へ当てる。
「……チカリ、チカリ、チカリ」
呼吸の様な声のリズムに、組まれた指の動きを合わせる。
それはまるで祈りの様でもあった。
チカリ、チカリ。
それはもしかしたら、何か秘密の呪文なのかもしれない。