孤高の魚



……『モノ』


吐き捨てる様にそう言った野中七海の視線は、空中のどこか一点をただ見詰めていた。
唇だけが動いて、頬には赤みもない。
首筋は青白く、髪の黒が刺すように映えていた。

肩は、やはり小刻みに震えている。


………


ふいに、彼女の視線がふわりと動いて、僕を捉えた。
その視線は弱々しく、瞳はゆらゆらと揺れている。

……泣いているのだろうか。
僕は瞳の奥を探ろうと強く見詰め返す。
けれども漆黒の円らなそれは、あやふやで掴み所がなかった。


「……わたしね、鏡で自分の顔を見た時、驚いたの。

まるで自分が自分ではないみたいだった。

腕も、足も、胸も、指も、全部よ。
自分の体に、違和感しか感じられなかったわ。

……でも、それは当然の事だったのかもしれない。
わたしは、何度も自分で命を絶とうとしたのよ」


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