孤高の魚
野中七海の視線は僕を離れて、またすぐに浮遊し出した。
……ゆらり、ゆらり。
まるで何かを追いかける様に。
ゆらり、ゆらり。
そのまま視線は定まらない。
………
時計はすでに三時を示そうとしていた。
眠いはずなのに、僕の頭は冷たく冴えて、微かな耳鳴りまで聞こえてくる。
「鏡で自分を見ると、死に損ないのわたしの体のあちこちには、黒く変色した痣が無数にあったわ。
それはまるで模様みたいに、手首や足首、お腹や太ももに、くっきりと残っていた。
……後になって、それは、わたしが何度も死のうとしたからだってセンセイが教えてくれたわ。
わたしは繋がれていたの。
パパが、わたしをベッドの上に縛りつけていたのよ。
……わたしを生かすために。
一咲を追おうと暴れるわたしを、パパは、助けたかったんだって、センセイはそう言っていたわ。
……でも、そんな事、わたしには信じられなかった。
だって、パパはわたしに会いには来てくれなかったもの。
アユがわたしをさらいに来てくれるまで、わたしは一人ぼっちだった。
どこだかわからない真っ白な病院で、たったの、一人ぼっちだったのよ」