孤高の魚
「でも……人間って、とっても卑しくて、とっても強いものなのよね。
アユが突然わたしの前に現れて、ナナ、一緒に行こう、逃げようって言ってくれた時、わたしは何も躊躇わなかったわ。
あの時は、自分の罪の事なんて、すっかり忘れてしまっていたのよ」
………
ふう……と、僕は小さな溜め息を吐いた。
彼女に気付かれないように、弱く。
「……一咲の事だってそう。
自分が一咲の後を追って、死を望んでいたなんて信じられないくらいだったわ。
アユが、わたしの生きるための全てを取り戻してくれた。
わたしとアユは手を取って、何もかもを置いて、振り切って、走って走って、逃げて逃げて……
僅かなお金とアユの人脈だけを頼りに、なんとか二人だけで、生きていくつもりだったの」