孤高の魚
「…あ……ん、…あ……」


泣いているのだろうか、と思った。


僕はそっとドアに近付き、僅かな隙間から中の様子を窺う。


………


久し振りに見る、モノトーンで統一された、歩太のシンプルな部屋。

ガラステーブルが一つ。
艶のない黒いチェスト。
ベッドの側には、スチール製の間接照明。


……


それらを目で追った後、僕の視線にぶつかる、間接照明に照らされた尚子の白い肌。

何もかもを露わにした、尚子の無垢な姿が、僅かな明かりの中で静かに揺れている。


………


そして途切れ途切れに呼ぶ……名前。


………


「……あっ…ん、…あ、…あゆ…た……」


……歩太の名前。


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