孤高の魚



野中七海の言葉が途切れると、しんとした刺す様な寒さがここにある事に僕は改めて気付いた。
そうして静かに、いつもと変わらないキッチンを見渡してみる。


………


言うなればここは、二人だけのシェルターであったのか。

手を取り合った二人は傷を舐め合い、この部屋でいったいどんな風に暮らしていたのだろう。

ダイニングテーブルの上では、どんな会話が行き来したのだろうか。
コーヒーの匂いはどれだけ漂い、この壁に染み付いたのだろう。

歩太と彼女、二人の時間はここに重ねられた。


そうして彼女は……

今よりももっと、笑っていたのだろうか。




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