孤高の魚
「パパはすぐに、逃げたわたし達を追いかけて来たわ。
……あっと言う間よ。
この狭い東京で、わたし達はすぐに見つかってしまった。
でもね、怯えるわたし達に、パパは笑ってくれたのよ。
まるでわたしとアユを許す様な素振りで、力になる、そう言ったの。
……酷い嘘だわ。
それでもね、わたし、パパを信じたのよ。
捨てられたと思っていたのだけれど、やっとわたしを見てくれるんだって。
一咲なんかじゃなくて、わたしを、ちゃんと認めてくれたんだって……」
野中七海の声は強い響きを持ったまま、明らかに震え出していた。
相変わらず、肩も揺れている。
組んだままだった手を、彼女はまた唇へと運び出した。
………
トン、トン、トン
トン、トン、トン
三つのリズム。