孤高の魚



それは突然の事で、僕は驚いた。
あんなに虚ろな彼女のどこから、こんな力が出てくるのだろうか。
そんな強い力で、彼女は僕の指を握りしめている。


「……どうした?」


まるで何でもない事の様に尋ねる。
いつもの様に。
まるで、彼女の頭痛を心配する時の様に。


「………」


彼女は答えない。
僕は彼女の背後に立ち、肩の温もりと指先の強い冷たさを感じながら、自分の鼓動が徐々に早まっていくのを感じていた。


……ドン、ドン、ドン


強く握られている僕の指先。

確かめる様に、強く強く、まるで軋むくらいに。


今、彼女が求めているのは……
「アユ」か?
「アユニ」か?


けれども、僕はこれ以上言葉を用意する事はできなかった。

正直、どうしたらいいのかわからない。
僕と彼女とを強く繋ぐ指先に、ただ戸惑っていた。


< 375 / 498 >

この作品をシェア

pagetop