孤高の魚
………
……
無言のまま、どのくらいの時間が経っただろう。
突然、スルリと糸が切れた様に、彼女の力が抜けた。
指と指は離れ、彼女の首が項垂れる。
気絶してしまったのかと、慌てて覗き込んだ僕の耳に届いてきたのは、スウスウと一定のリズムを刻む彼女の微かな寝息。
彼女はこの寒さの中、背もたれに細い背中を預けたまま眠ってしまっていた。
「……なんだ」
思わず安堵の声が漏れる。
「こんなところで寝たら、風邪ひくよ」
肩を揺らしてみる。
けれども、力なく下がった腕が僅かに動いただけだった。
………
一気に吐き出して話し疲れたところで、緊張の糸が切れてしまったのかもしれない。
長い睫毛が、青白い頬に影を落としている。
初めて見る彼女の寝顔は、まるで透き通る硝子細工の様に無機質で、美しかった。
思わず、触れたくなる。
「……フウ、ハー……」
邪念を押し出す様に、僕は大きな溜め息を吐いた。
それから、力なく垂れた彼女の腕を自分の肩へかけ、膝に腕を滑り込ませると、腰を痛めないように気を付けながら彼女を持ち上げた。
彼女の華奢な身体は、想像以上に軽かった。