孤高の魚
♪まっかなおっはっなっのー
となかいさ、ん、わあー♪
おしぼりをマイクに仕立ててはしゃぐ彼女。
なんだか僕には、少し無理をしている様にも見えてしまう。
考えすぎなのだろうか。
………
「いよいよだな」
工藤さんが意味深な笑みを浮かべながら、僕にビール瓶を差し出す。
「……いただきます」
それにグラスを持って答えながら、僕は躊躇いを見せる。
果たして本当に、これ以上過去と向き合う事は、彼女のためになるのだろうか。
想像以上に壮絶だった彼女の過去に、今更ながら仙台行きへの不安を覚えている。
「恐いのか」
工藤さんは多分、それを見透しているのだ。
「……恐いですよ」
口元でビールのグラスを一気に傾けた。
心地よい苦味が鼻から抜ける。