孤高の魚
吐く息は白く、他人のそれと溶け合いながら馴染んで行く。
それを繰り返していくうちに、この寒さにもようやく慣れてきたような気持ちにもなる。
けれども指先や足先には、痺れるような感覚が何度も襲ってくる。
「寒いわね」
彼女は何度かそう呟いては深く息を吐いた。
「でも、この、身体が浄化されていくような冷たさ、嫌いじゃないわ」
微笑む彼女の鼻が赤い。
………
仙台の街の中。
ビルとビルの間の細い路地。
派手な雑貨屋のショーウィンド。
デパートの入り口のソファー。
そのどこかに、また、そのどこにも、歩太の姿が見えるような気がした。
影武者のように誰かの形を借りてみたり、幽霊のように突然現れてみたり、歩太の形はいつも変幻自在だ。