孤高の魚



………


どれくらい歩いただろう。

小さな公園や宅地も増え、視界には賑やかさが戻ってきている。


野中七海は歩調を緩めず、真っ直ぐな姿勢でただ機械的に足を動かしていた。

……緊張しているのだろう。

その固い横顔からは、妙な気迫すら感じられた。


………


おそらくこの辺りに、三人は住んでいたのだ。

歩太と一咲さんと、野中七海。
この道を三人で肩を並べて歩いた事だってあるかもしれない。
もちろん歩太と野中七海、二人きりで歩いた事だって……

このコンビニで買い物をした事もあるだろう。
その奥の本屋で文庫本を買った事も。
はす向かいのカフェでコーヒーを飲んだ事も。
あの歩道橋を渡って、向こう側に見えるお洒落な雑貨屋に立ち寄った事だって。


……そう思うだけで、歩太が今ここに、ふいに現れるような気さえする。


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