孤高の魚
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歩くペースを緩め、僕と野中七海はマンションがあったであろう場所を目指した。
さっきとは全く違う、緊張の解けた表情を浮かべながら、野中七海はどこか安堵を見せている。
特別な思いを馳せていたこの街が変わっていた事。
住んでいたマンションが消えてしまっていた事。
それらの事実は、彼女の中にどんな感情をもたらしているのだろうか。
僕には、安易に想像できないけれども。
………
マンションが建っていたはずの場所……
そこは更地になっており、新しいマンションを立てるための基礎を作っている所だった。
まだ新年3日目ということもあって、作業は行われておらず、ただ閑散とした風景が広がっている。
入居者募集の看板には、何とも無機質でつるりとした、白く大きなマンションが描かれていた。