孤高の魚
「何だか、実感がないわ。わたし達は確かにここにいて……」
視線を動かさないままで彼女は呟いた。
「一咲はここで、死んだのよね」
………
その問いに、僕は何も答えられなかった。
ただ彼女の隣に黙って立って、その横顔を見ていた。
チリン、チリンと、自転車に乗ったおばさんが滑稽な音を鳴らして僕達の後ろを通り過ぎて行った。
僕には何だかその軽快な音が、やけに心地よく感じられた。
『何をそんなに拘っていたの?
何だかとっても、馬鹿馬鹿しい』
まるで、そんな風に言われたような気がした。
………
僕達はフェンス沿いにゆっくりと歩いて、辺りを一週した。
その間、野中七海は独り言のように何かを呟いては飲み込んでいた。