孤高の魚



「もう、行こうか」

そう切り出したのは僕だった。
風が冷たくて、身体が冷えきっていた。
さすがの僕も、少し休みたい気分だった。


「どこかで休もう。ちょうどお昼の時間だし、食事にしようよ」


僕の提案に彼女はハッとし、

「それなら、行きたい所があるの」

と、僕の顔を見た。


「近くに、アユと、よくご飯を食べに行った所があるから」


………


そこは、小さな定食屋だった。

彼女の言う通り、マンション跡地のすぐ裏にあるそのお店は、歩太のイメージにはとても似つかわない、庶民的で薄汚れた店だった。


「いらっしゃい」


ガラガラと鳴る硝子戸を開けると、白い三角巾を被った50代くらいの女の人が、快活な声で僕達を迎えてくれた。



< 408 / 498 >

この作品をシェア

pagetop