孤高の魚
「もう、行こうか」
そう切り出したのは僕だった。
風が冷たくて、身体が冷えきっていた。
さすがの僕も、少し休みたい気分だった。
「どこかで休もう。ちょうどお昼の時間だし、食事にしようよ」
僕の提案に彼女はハッとし、
「それなら、行きたい所があるの」
と、僕の顔を見た。
「近くに、アユと、よくご飯を食べに行った所があるから」
………
そこは、小さな定食屋だった。
彼女の言う通り、マンション跡地のすぐ裏にあるそのお店は、歩太のイメージにはとても似つかわない、庶民的で薄汚れた店だった。
「いらっしゃい」
ガラガラと鳴る硝子戸を開けると、白い三角巾を被った50代くらいの女の人が、快活な声で僕達を迎えてくれた。