孤高の魚
「……いえ」
咄嗟に微笑みながら、野中七海の表情は明らかにひきつっていた。
一咲さんの自殺は、この辺りでは随分噂になっていたのかもしれない。
……本人達の痛みなど他所に。
世間というものは、多分、そういうものなのだろう。
「そうねえ、春くらいだったかしらねえ、突然、来てくれて。
スタミナ定食、注文してくれたんだけどねえ、ほとんど食べてなくて」
女性はわざと訝しげな表情で、
「変よねえ」
と言葉を続けた。
………
歩太はやはり、仙台に来ていたのだ。
かつて自分が暮らしていたマンションを訪ね、そして、この店にも。
盗むように見た野中七海の表情は、今にも崩れてしまいそうな緊張感で一杯だった。
喜びと悲しみと、少し怒りに近いようなものと、そのどれもを含んでいるような……そんな、顔。