孤高の魚
「すいませーーん」
「あ、はいはーーい。
じゃあ、ごめんなさいね。ごゆっくり」
他のお客さんに呼ばれて、彼女はそそくさとお辞儀をして去って行った。
強すぎる余韻だけを残して。
………
テーブルでは、食べ終えた食器、空になってしまった湯飲みだけが、僕達の沈黙を見守っていた。
野中七海は唇をギュッと結んだまま、ゆっくりとした瞬きを繰り返している。
僕は、どんな言葉を用意すればいいのか悩んでいた。
歩太はここで、食べられないスタミナ定食を目の前に座り、いったい何を思っていたのだろう。
かつての自分をどう映し、どう受け止め、どう解釈したのだろう。
あの綺麗な顔を歪め、この臭いを我慢していたに違いない。
あの時とは変わってしまった自分に、彼は幻滅していたのだろうか。