孤高の魚
「こちらへ、どうぞ」
カウンターの奥に立つ、華奢な腕の持ち主が、僕をカウンターに招き入れる。
彼は、暖かい、湯気の出るお絞りを差し出して、
「いらっしゃいませ」
そう言って、もう一度笑った。
………
眼鏡の奥の、射すような眼差し。
薄い唇に湛えた、神秘的な微笑み。
ひどく尖った顎の、美しいライン。
スッと真っ直ぐに立つ男のその姿態は、男の僕をもドキリとさせるほどに美しかった。
それが、僕と歩太との初めての出会いとなった。
………
「……あ、なま、1つ」
僕はお絞りを受け取りながら、なるべく堂々と、できるだけ慣れた雰囲気でそう呟いた。
「かしこまりました」
小さく一礼して、その美しい彼はニッコリと笑う。
その笑みには確かに少し、含みがあったように思う。