孤高の魚
「お客様は、どちらからですか?」
美しい彼はグラスを拭きながら、カウンターの中から突然僕に話しかけてきた。
「……あーー……北の方です。秋田県の……すごく、田舎で……」
僕がそう答えると、それに食い付いてきたのは、意外にも隣のカウンターの男だった。
「おっ、お前は北か! 北もいいよなあ。オレ? オレは九州」
嬉しそうに微笑む男。
後で知ったのだけれど、その男は柳橋さんといって、「COM」の常連さんだった。
「お前、名前は?」
柳橋さんは、無精髭を撫で回しながら僕の顔を覗き込む。
トロンとした人なつっこい目が、何だか愛らしかった。