孤高の魚
野中七海の嗚咽は、どんどん叫びに近いものになる。
白いベッドカバーの中にそれを含ませるようにして、彼女の顔はそこに埋もれていた。
回した腕に、僅かに力を込める。
なだめるように、けれども溢れ出る彼女の感情を、決して抑制したりしないように。
こんなにも激しく野中七海の感情が波立つのを、僕は今まで見た事がない。
彼女はいつも……あの、罪の告白をする時でさえ、冷たいくらいに静けさを保っていた。
発作で震え出した時も、彼女の感情には一枚の薄いフィルターが被せてあった。
少なくとも、僕はそう感じていた。
ところが、今僕の腕の中にいる彼女は、溢れ出る感情を抑える事なくこのベッドに垂れ流している。
それはまるで目にも見えるように、激しく、強い感情の渦だ。
この波が、枯渇する事はないのかもしれない。
けれども、少しは彼女が抱える痛みを楽にする事ができるだろう。
そうしていつか、充分な疲れが彼女の身体を訪れた時、意識を沈めてほんの少しでも眠ればいい。
次に目が覚めた時には、いつものように彼女の顔には爽やかな表情が浮かぶはずなのだから。