孤高の魚
「あっ……アユムです。……飯田、歩夢。夢を歩むと書きます」
僕ができるだけにこやかな笑顔でそう答えると、柳橋さんは日に焼けた赤黒い顔を、くしゃくしゃにして笑った。
「おーーっ、そうか、歩夢かあ。おい、歩太。お前と一字違いじゃねえか?気が合いそうだなあ、お前ら。んーー?」
柳橋さんはどこか満足げに、僕と歩太と呼ばれた彼の顔を交互に見ながら言った。
歩太……は柳橋さんのそれに緩やかな笑顔で応えながら、チラリと一瞬、僕の方を見た……ように見えた。
僕はその歩太の視線を好意的に受け取り、俯き、そっと一口(ノンアルコール)ビールを飲みながら、口元だけにささやかな笑みを浮かべた。
歩太は多分、僕のそれを見て、少し目を細めた…ように思う。
あの瞬間の小さな出来事から、僕と歩太は不思議に引き合った。
柳橋さんが、後から店に入って来た女の子二人組にちょっかいを出してる間、僕と歩太はボソボソと世間話を通わせながら、お互いを繋ぐ不思議な縁のようなものを感じていた。