孤高の魚
頭のどこかで、探しても無駄だという事は解っていた。
カバーは野中七海の体温をすっかり失って冷たくなってしまっていたし、それは即ち、随分前に彼女が出ていってしまった事を示している。
けれども僕は、走り出さないわけにはいかなかった。
凍てつくような朝の空気の中を。
できるだけ頭の中を空にして、手当たり次第に走り回った。
コンビニに駆け込み、彼女の姿がない事を確かめると、店員の視線を気にする間もなく出る。
オフィスビルの間を、縫うように駆け抜けた。
けれどももちろん、彼女の姿はない。
どこにも。
このまま走り続けても、僕の体力が消耗するだけだ。
………
彼女は出て行った。
それは、疑う余地もない。
どこに?
それは……
彼女にしか解らない。