孤高の魚
帰宅
チェックアウトの時間が迫るまで、僕はベッドの上で何もせずに過ごしていた。
時折僕の頭中に疑問のようなものが生まれ、答えが出ないまま消えていく。
「どうして……」
そう声に出る事もあった。
どうして。
どうして、彼女は出て行ったのだ。
一体どうして。
けれどももちろん……
それを知る由はない。
………
一人、チェックアウトの手続きを済ませ、駅へ向かう。
野中七海が駅で僕を待っている可能性について考えてみた。
いや、もしかしたら、先に東京へ帰っているかもしれない。
けれども一体どこに、そんな理由があるだろう。
新幹線の自由席に乗る。
東京へ向かう新幹線の中は、両手にお土産を持った帰省客でごった返していた。
ドア付近に小さなスペースを見つけてそこに立つ。
笑顔に溢れた家族連れ。
疲れを溜めた老夫婦。
露骨にうんざりした顔を見せる若者達。
空っぽになってしまった僕の前を、彼らは生き生きとした表情で通り過ぎて行く。