孤高の魚
東京の街は、ここを出た時と変わらずに僕を迎えてくれた。
寒さも、仙台に比べれば厳しいものではない。
行き交う名も知らない人達は、無関心に通り過ぎて行く。
街全体が目的を持たない箱のように、無言のままそれらを見送っている。
何も変わらない。
隣に……野中七海が居ないという以外には。
………
野中七海がいない。
それは、僕にとって埋めようのない穴だった。
例えこの東京には、彼女の存在はあってもなくても同じようなものだとしても。
一緒に暮らしていたのはたった数ヶ月なのに、今となっては、彼女のいない生活など想像できない。
一度知ってしまったのなら、知り得る前に戻る事などできない……それが恋というものなら尚更。
電車を乗り換えアパートへ帰る。
ショルダーバックの肩紐が、やけに肩に食い込んでくる。
けれどももう、カバンを持ち替える事すらも面倒だった。
痛みなら、もう慣れた。
大した問題じゃない。
彼女がいない事に比べれば。