孤高の魚





それから僕は、ほとんど無意識に、野中七海の部屋の前に立った。

……歩太と彼女の居場所。


ドアを開ける。
あの時の異様な風景が、再度僕を待ち受けている。


文字に姿を変えた、壁一面の歩太。
その中に、僕はゆっくりと踏み込んだ。


ふと、壁の一角にある薄茶色の三角形が目に留まる。


……三角形?
いや、違う。
それは、丸みを帯びた台形の様な形をしている。

……フィルター?
そうだ、見覚えがある。
あれは、コーヒーメーカーを使う時のフィルターだ。


何かに導かれる様に歩み寄り、それを手に取ってみる。
ちょうど、ベッドの枕の位置だ。


案の定、そこにはコーヒーフィルターが数枚、重ねられている。
よく見ると、そこには鉛筆で書かれた神経質な文字が並んでいた。

この文字に、覚えがある。


これは……
歩太の字だ。



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