孤高の魚
しばらくそうして、僕は感情の赴くままに涙を流した。
歩太の事。
野中七海の事。
思い出せば思い出すほどに、二人の存在が僕の胸を締め付ける。
けれども二人は、もうこの部屋にはいない。
あるのは二人が生きた軌跡、この部屋に残された残骸だけなのだ。
僕は結局、二人を見送っただけにすぎない。
………
僕はもっと歩太と話をするべきだった。
僕達はもっと深く解り合えるはずだった。
歩太の口から、野中七海の事を聞き出す事だってできたかもしれない。
最初から歩太は僕に彼女を任せる気だったのだ。
歩太は全てを見通していたに違いない。
いつか僕が、彼女に恋をする事ですら。
………
『僕達が思っている以上に大きな力が働いて、頭から、まるで津波のように、何もかも奪われることもあるって事だよ』
いつか、夢の中で歩太がそんな事を言っていたのを思い出す。
それは当に、こういう事だったのだ。