孤高の魚
インスタントコーヒーを濃いめに入れ、僕は一人ダイニングテーブルに着いた。
何かのきっかけで、またすぐにでも涙腺が弛んでしまいそうになるのを堪えながら、コーヒーを啜る。
白い湯気を上げるコーヒー。
野中七海に出会ってから、それはいつも僕の側にあった。
歩太の側にも。
ああ……彼女が入れてくれたコーヒーが飲みたい。
笑った顔が見たい。
怒った顔でもいい。
彼女の事を思うと、鼻の奥がツンと痛む。
また、涙が滲んでくる。
………
僕はポケットから携帯を取り出した。
工藤さんからの着信と、尚子からの着信とメールがあった。
二人にはどう話すべきだろうか。
野中七海の行方が解らないとなれば、間違いなく僕は咎められるだろう。
それは当然だ。
けれどもこの気持ちは、誰にも解らない。
歩太の軌跡を追った仙台で、野中七海と分かち合った痛みは、どうしたって僕だけのものなのだから。