孤高の魚
埋葬
………
その日、僕はいつもの様に「さくら」へ出勤した。
目を腫らして一人で出勤してきた僕に、ママと小百合さんは何かを言いかけて口をつぐみ、それから悲しそうに微笑んだ。
工藤さんもまたオープンしてすぐにお店に現れ、僕にビールをご馳走してくれた。
「仕方ないさ。
あの子がそれを望んだんだ」
そう言った工藤さんの眼鏡の奥が潤んでいるのを、けれども僕は見逃さなかった。
………
仙台で起こったであろう事を、誰もが深くは追及して来なかった。
僕の隣に、野中七海が居ない。
みな、その事実だけで大体の事を飲み込んでくれているようだった。
その優しさに、僕は心底救われていた。
いずれ話せる時が来れば話してくれるだろう……そんな大人の配慮がそこにはあった。