孤高の魚
歩太も野中七海も忽然と姿を消したしまった僕のアパートは、主役不在のドラマセットのように虚しい静けさを保っていた。
次の朝を迎えても、キッチンがしんとしている。
毎日、こんな朝が来るのかと思うと僕は心底憂鬱になった。
僕の鼻が、コーヒーの匂いを欲している。
僕の舌が、野中七海が作った朝食にありつけるのを待っている。
そうして視線が……
彼女の笑顔を捕らえる事を望んでいた。
けれどももちろん、それらが叶えられる事はない。
………
午後になってアパートを訪ねて来た尚子は、野中七海の行方が解らないと知って声を上げて僕を責めた。
「何でよ、どうして?
何があったの?
説明してよ、歩夢」
そう尚子に強く問われても、僕には返す言葉がなかった。
「あたしの大切な人は、いつも黙っていなくなる」
それからそう呟いて、尚子は僕の胸に顔を埋めて泣いた。
尚子は、彼女の唯一と言っていい大切な女友達を失ってしまったのだ。