孤高の魚
結局の所、僕が彼女について知っている事など、微々たるものに過ぎなかったのだ。
僕の彼女に対する理解が乏しく、それが彼女を幻滅させてしまったのかもしれない。
あの夜、服を脱いだ彼女を抱けなかった僕の弱さもまた……
けれども僕は、僕でしか在り得ない。
それを悔やんだ所で、一体何になるだろう。
…………
僕は野中七海が居なくなってから、自室で一人、窓際に座って煙草を吸う事が多くなった。
尚子に気を使ってということもある。
そうして夜空に紫煙を吐き、それがうやむやに闇に紛れていくのを、飽きもせずに眺めた。
それから思う。
野中七海は今、幸せなのだろうかと。
どこに居たっていい。
何をしていたっていい。
それが彼女の決断の先にある事なら、僕は何も手出しはできなかっただろう。
例えその先に、確実な死があったのだとしても。