孤高の魚
彼女はそれを知っていたのだ。
だから何も言わずに居なくなった。
歩太の代わりにはなれない僕に、さっさと見切りをつけたのだろう。
『アユニ』
……二番目の歩太。
彼女がそう呼ぶのを、僕は最後まで上手く受け止める事ができなかった。
歩太の影に隠れて身を守り、けれども卑屈にもなり、どこか居心地が悪かった。
僕は歩太の仮面など、最初から着けるつもりはなかったのだ。
ただの臆病者である飯田歩夢そのままで、彼女に寄り添える事を心から望んでいた。
恐らく、きっと
……あの手紙を手にしてしまった、その時から。
『アユニ』
けれども彼女が居なくなってしまった今では、その名を呼ぶ声が
……ひどく愛しいのだけれど。